海上運送人の責任範囲
1.各条約と国際海上物品法制定沿革
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条約と国内法の要点 ※各国が批准した条約に基いて制定した国内法がCOGSA(Carriage of Goods by Sea Act)です。 ※各船社のB/L裏面約款がどの条約に基き作成されているかを知る必要があります。通常、これにより準拠法・ 裁判管轄権等が指定されます。 ※ヘーグ・ルール(米国等)、ヘーグ・ヴィスビー・ルール(貿易主要国等)、ハンブルグ・ルール(発展途上国等)が混在します。 |
2.契約ごとの運送人の特定
※(注)航海傭船契約において航海傭船者より船荷証券が発行される場合は、カーゴ・レシート等と同様の意味合いなので、実質の船荷証券としての内容は、一般的に航海傭船契約の内容が適用されます。
船荷証券裏面約款には、下記のようなクローズが通常挿入されていますので、契約運送人が誰であるかを特定することが重要となります。また、過去の判例で下記約款の有効性、無効性が争われ*てきました。
*(米国 Epstein vs USA 1949 AMC 1598) (Blandard Lumber SS AnthonyII 1967 AMC 103) (英国 Berkshire [1974] 1 Lloyd's Rep 185)
(英国 Hector [1982] 2 Lloyd's Rep 287)
If the ship is not owned or chartered by demise to the company or line by whom this bill of lading is issured (as may be the case notwithstanding anything that appears to the contrary), the bill of lading shall take effect as a contract with the owner or demise charterer as the case may be as principal made through the agency if the said company or line who act as agents only and shall be under no person liability whatsoever in respect thereof. 当該船舶を所有または裸傭船していない船荷証券発行会社と定期傭船会社は、船舶所有者の代理人なので責任がなく、全ての責任は船舶所有者である。 |
The contract evidenced by this bill of lading is between the merchant and the owner of the vessel named herein (or substitute) and it is therefore agreed that said shipowner only shall be liable for any damage or loss due to any breach or non-performance of any obligation arising out of the contract of carriage, whether or not relating to the vessel’s seaworthiness. If, despite the foregoing, it is adjudged that any other is the carrier and/or the bailee of the goods shipped hereunder, all limitations of and exoneration from, liability provided for by law or by this bill of lading shall be available to such other. “It is further understood and agreed that as the line, company or agents who has executed this bill of lading for and on behalf of the Master is not a principal in the transaction, said line, company or agents shall not be under any liability arising out of the contract of carriage nor as carrier nor bailee of the goods |
※通常、船荷証券(Bill of Lading)発行者が運送人であるが、傭船契約や船荷証券の約款内容・表記文言により特定が困難な場合があります。 ※実際運送人は契約当事者じゃない場合に不法行為責任のみを負います。 |
3.運送人の定義
国際海上物品運送法
(2条2項) 海上運送を行なう - 船舶所有者・船舶賃借人・傭船者
船荷証券至上約款(JIFFA B/L)
(1条1項) 運送契約を締結し運送に履行義務を負う証券表面記載会社
ヘーグ・ルール
(1条) 船舶所有者・傭船者
ハンブルグルール
(1条1項2項) 運送人・実際運送人
米 国
全当事者
4.出訴期限
①出訴期限 1年 → 国際海上物品運送法14条1項
②出訴期限延長 → 国際海上物品運送法14条2項
※運送契約によって損害発生前に1年を超える出訴期限を定める事ができない。
※1年より短い出訴期限を定める船荷証券は無効(国際海上物品運送法15条1項)
③第三者の下請け会社への求償
除斥期間の延長は、下請け運送契約に国際海上物品運送法が適用される場合のみ適用。
陸上運送契約・航空運送契約・国内海上運送契約・ヘーグルール運送契約等は不適用。
ヒマラヤクローズについて
運送人の責任制限を第三者である関係者全員に拡大適用する旨のB/L裏面条項で、国際海上物品運送法では運送人および運送人の使用人も同一の利益を享受する旨で、責任の減免を限定しています。
Without prejudice to the foregoing, every such servant, agent and sub-contractor shall have the benefit if all provisions herein benefiting the Carrier as if such provisions were expressly for their benefit; and in entering into this contract, the Carrier, to the extent of those provisions, does so not only on its own behalf, but also as agent and trustee for such servants agents and sub-contractors.
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5.責任制限
①B/LのPackage limitation(梱包単位) と Weight limitation(重量)
ヘーグ・ルール (コンテナを予想していない) |
£100 米 国 £500 日 本 100,000円 |
ヘーグ・ヴィスビー・ルール | 10,000フラン per package 30フラン per kilo |
1979年議定書 | 666.67 SDR per package 2 SDR per kilo |
国際海上物品運送法 (13条1項・13条の2)を参照 2 SDR per kilo |
666.67 SDR per package |
1項 |
②船主責任制限法
①100トン未満木船 336,000 SDR ② ~ 2,000トン以下 1,000,000SDR ③2,000 ~ 30,000トン ② + トン当たり 400 SDR ④30,000 ~ 70,000トン ② + ③ + トン当たり 300 SDR ⑤70,000トン超 ② + ③ + ④ + トン当たり 200 SDR |
船舶所有者、船舶傭船者等が自己の責任を一定額に制限する法律(船舶の所有者等の責任制限に関する法律)で、
1957年海上航行船舶の所有者等の責任に関する国際条約の改正条約である【1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約】を1982年に国内法化しています。
その後1996年の議定書に批准し、2005年6月に公布(2004年5月施行)となり、上記責任限度額となっております。
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6.運送人・荷主の責任範囲と貨物海上保険の役割
貨物保険に加入していない場合に、赤い実線の部分が荷主の責任範囲となります。
外航貨物海上保険は損害があった場合に、契約者である荷主に約定した保険金を支払います。その後、代位求償権を行使し運送人に対して損害賠償請求(青の点線部分)をします。回収された額は、個々の保険契約者の保険成績に加味されます。
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7.国際海上物品運送法と各条約の比較
国際海上物品運送法 |
RotterdamRule |
ヘーグ・ヴィスビー・ルール |
ハンブルグルール |
船荷証券至上約款 (JIFFA B/L)参考 |
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適用範囲 |
(1条及び15条3項) |
船荷証券発行の有無を問わず、運送人が運賃の対価として行なう国際海上輸送。受取地、船積地、引渡地、荷卸地の何れかが締約国に所在する輸送 |
国際海上物品運送の全てに適用し、船荷証券の発行を要する |
(2条) |
(2条) 海上物品運送法の適用範囲 臨海ターミナルを含む |
運送人の定義 |
(2条2項) |
荷送人と運送契約を締結する者(下請の港湾荷役業者、ターミナルオペレーター、船主等を含む) |
船舶所有者・傭船者 |
運送人・実際運送人 |
(1条1項) 運送契約を締結し運送に履行義務を負う証券表面記載会社 |
責任区間 |
船積港から荷卸港まで |
受取から引渡まで |
船積から荷卸まで |
船積港から荷卸港まで |
受取りから引渡しまで |
運送人の責任 |
(3条1項) |
・貨物の積込み、荷卸、積付、輸送等に適切な注意を払うこと。但し船積、積付、荷揚等を荷送人が行なう場合は、運送人は免責。 ・船舶の堪航性・人的な堪航性・船倉等の堪貨性については、航海中を継続して義務を負う。 |
過失責任 |
物品が船積港、運送中、荷揚港において運送人の管理下にある期間の滅失、損傷または引渡し遅延損害 但し、事故・遅延の発生に対して、回避するための合理的な手段を取った事を立証できれば免責。 |
(22条1項)運送品の滅失または損傷 |
(5条)発船時における堪航能力担保義務 |
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免責 |
(3条2項) |
(17条3項) |
航海過失、火災、海固有の危険、天災、戦争、海賊、裁判、検疫、荷主の行為、ストライキ、離路、運送品の性質、隠れた欠陥、荷造り不完全 |
(5条1) |
(22条2項) 荷主の故意または過失、指図者の指示に従ったこと、運送品の固有の瑕疵又は性質、梱包不完全 |
責任制限 |
(13条1項) |
(59条1項) |
666.67SDR/package |
(6条a) |
(23条1項) 到達地の市場価格 (CIF価格を正品価格とみなす)(23条) いかなる場合でも 666.67SDR/package or 2SDR/kg |
損害通知 |
(12条1項) |
(23条1項) |
貨物の毀損 7日 |
通常 引渡日の翌営業日 |
(26条1項) 7日以内 |
出訴期限 |
(14条1項) |
(62条) |
(3条6) |
(20条1) |
(26条2項) 引渡しより9ヶ月 |